昔は、医師のこのような職務への献身的犠牲のかわりに、社会的な尊敬が与えられていたが、長期にわたる新聞テレビの、ごく一部の医師の不適切行為を誇張し、医師や医師会に対するネガティブな報道姿勢とともに、医師の無形の社会的尊敬もまた消失した。これが一部の医師が金銭的報酬を追求するよりなくなる悪循環となり、本来倫理性と理想により維持されていたシステムが綻びだしていた。
皆保険による診療報酬体系自体も、診療行為そのものへの支払いはありえないほど貧弱で、製薬会社・医療機器メーカー等への支払いが中心になっている。つまり医療費抑制の問題は、これらの企業に対峙することが重要だが、TPPや年次改革要望書はその全く逆で、企業の利益追求を保護しようとする。
一方で日本の患者の要求性は、世界的にみて非常に高く、コンビニと高級百貨店の両方の要素を要求し、現場の医療関係者への重圧となっている。これに医療訴訟を煽る新聞テレビの影響が加わって、医療は防御的となり、過剰な診療・検査へと圧力がかかっている。
つまり医療費抑制の問題は、製薬企業・医療機器メーカー・検査会社の利益追求の機会の規制と、国民皆保険制度を維持できながらも一定程度に高いレベルの医療を国民に提供するための、国民側の理解の2点が重要。この点からも新・年次改革要望書(U.S.-Japan Economic Harmonization Initiative)およびTPPは医療費問題の解決を困難にするとみられる。
実のところ、一部の医師は、TPPに盛り込まれるという混合診療の全面解禁を歓迎すると思われる。前出したように、日本の医師は先進国の中で最も労働条件がわるく給料が低いほう。欧米との格差を知ってより高い報酬を求める医師は、(欧米で起きたのと同様に)美容などの自由診療を志向する。
従って、医師会が朝日がいうように「既得権益を守る」利益追求団体であるならば、一部の医師に高給を保証するTPPに賛成するはず。しかし現実に医師会はTPP反対の筆頭。これは、日本の医師が、金銭ではなく倫理性と理想による医療体制を継続する意思表明であり、日本の医療にとって希望と思う。
(2011/10/16Twitter @masahirono より)
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